45# 対 55# – 組成、熱処理、特性、および応用

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はじめに

エンジニアや購買担当者、製造計画担当者は、強度・靭性・コスト・加工性のバランスが求められる場合に中炭素鋼の選択を行うことがしばしばあります。この分野でよく検討される鋼種として、中国の表示である45#および55#があり(それぞれ名目上約0.45%および0.55%の炭素含有量を持つ鋼にほぼ対応)、軸や車軸設計、鍛造品やプレス部品、熱処理部品、溶接性と強度・耐摩耗性のバランスを考慮する状況での典型的な検討対象となります。

これら2種の実際的な主な違いは、55#の方が炭素含有量が高いため、一般に高い強度と硬化性が得られる一方で、靭性や溶接性が犠牲になる点です。このトレードオフによって、設計者は高い浸透硬化や表面硬さが求められる部品と、靭性・成形性・接合のしやすさを優先する部品とを比較検討します。

1. 規格および表示

  • GB/T(中国):45#および55#はGB/T 699および関連規格における炭素構造用鋼・中炭素鋼の代表的な普通炭素鋼グレードです。
  • AISI/SAE対応(おおよそ):45# ≈ AISI/SAE 1045、55# ≈ AISI/SAE 1055(名目値)。
  • EN(欧州):これらの鋼種は非合金炭素鋼ファミリー(例:EN 10083のC45ファミリー)に分類され、合金鋼、工具鋼、ステンレス鋼、HSLAには該当しません。
  • 分類:いずれも普通炭素鋼(ステンレス鋼、HSLA鋼、工具鋼ではない)であり、一般に焼入れ焼戻しや表面硬化に適した中炭素鋼として扱われます。

2. 化学成分および合金化戦略

元素 代表的な45#(質量%) 代表的な55#(質量%)
C 0.42 – 0.50 0.52 – 0.60
Mn 0.50 – 0.80 0.50 – 0.90
Si ≤ 0.40 ≤ 0.40
P ≤ 0.035 ≤ 0.035
S ≤ 0.035 ≤ 0.035
Cr ≤ 0.25(微量) ≤ 0.30(微量)
Ni ≤ 0.30(微量) ≤ 0.30(微量)
Mo ≤ 0.08(微量) ≤ 0.08(微量)
V、Nb、Ti、B、N 微量またはppmレベルが一般的(マイクロアロイ鋼でない限り) 微量またはppmレベルが一般的(マイクロアロイ鋼でない限り)

補足: - 上記の成分範囲は一般的な市販45#および55#の代表的値であり、具体的な限界は各国の規格や製造者に依存します。 - 両鋼種ともに主に炭素強化型です。MnおよびSiは脱酸および強化のためわずかに含まれ、それ以外の元素は通常微量レベルです(マイクロアロイ鋼でない場合)。 - 合金化戦略としては、炭素増加により強度・硬さ・硬化能(厚断面をマーテンサイト化する能力)が向上します。マンガンは引張強さと硬化能の向上、脱酸助成に寄与し、シリコンは主に強度やバネ性に寄与しますが微量です。

3. 微細構造および熱処理反応

  • 圧延(熱間圧延)またはアニーリング状態:
  • いずれも一般にフェライト+パーライト組織を示します。55#は炭素が高いためパーライトの体積比が増え、引き渡し時の硬さ・強度は高い一方で、靭性は低下します。
  • 正火処理:
  • 正火処理は粒径を細かくし、均一なパーライト・フェライト組織を生成します。両鋼種とも良好に反応し、55#はより高い強度を保持します。
  • 焼入れ焼戻し(Q&T):
  • 焼入れによりマーテンサイトを形成し、その後の焼戻しで高強度・靭性の組み合わせを得る標準的な処理方法です。
  • 55#は炭素(およびやや高めのMnの影響で)焼入れ硬さ・浸透硬化が高くなりますが、焼入れ割れのリスクが増えるため焼戻しを慎重に行い靭性回復を図る必要があります。
  • 熱機械加工:
  • 鍛造や制御圧延により微細組織を改善し、靭性向上が可能です。マイクロアロイ元素(V、Nb、Ti)があれば熱処理反応は大きく変わります。
  • 硬化能:
  • 硬化能は炭素と合金元素の影響を受け、炭素およびMnが高い55#は45#より硬化能が大きく、より厚い断面でも高硬度組織を形成しやすいです。

4. 機械的性質

下表は代表的な機械的性質の範囲を示します。数値は名目成分、断面サイズ、熱処理条件に大きく依存します。

特性(代表的範囲) 45#(正火処理/典型的焼入れ焼戻し) 55#(正火処理/典型的焼入れ焼戻し)
引張強さ(MPa) 正火:550 – 700;焼入れ焼戻し:700 – 1000+ 正火:650 – 820;焼入れ焼戻し:800 – 1100+
降伏強さ(0.2%オフセット、MPa) 正火:320 – 430;焼入れ焼戻し:500 – 900 正火:420 – 620;焼入れ焼戻し:600 – 1000
伸び(A%) 正火:12 – 18%;焼入れ焼戻し:8 – 16% 正火:8 – 14%;焼入れ焼戻し:6 – 12%
衝撃靭性(シャルピーV、室温、J) 断面依存で25 – 60 J 断面依存で15 – 45 J
硬さ(HB) 正火:約160 – 210 HB;焼入れ焼戻し:約200 – 320 HB 正火:約190 – 240 HB;焼入れ焼戻し:約240 – 350 HB

考察: - 強度:55#は炭素含有量(およびパーライト・マーテンサイトの割合増加)によって、同条件でより高い引張強さ・降伏強度を達成可能です。 - 靭性・延性:45#は正火状態で一般により延性があり靭性も高く、特に大断面や不適切な焼戻し時の脆化が起こりにくいです。 - 硬さ:55#は引き渡し時および熱処理後のいずれもより高硬さとなる傾向があります。 - すべての数値は熱処理条件(焼入れの厳しさ、焼戻し温度・時間)、断面形状、具体的な化学成分に依存します。

5. 溶接性

  • 炭素含有量と硬化能が普通炭素鋼の溶接性を左右する主因です。炭素および硬化能が高いほど、熱影響部で硬く脆いマーテンサイトが形成されやすく、冷割れを生じやすいため予熱・後熱や適切な充填材使用が必要となります。
  • 一般的な予測指標:
  • 国際溶接協会(IIW)炭素当量: $$CE_{IIW} = C + \frac{Mn}{6} + \frac{Cr+Mo+V}{5} + \frac{Ni+Cu}{15}$$
  • Dearden–O’NeillのPcm(溶接材選定用): $$P_{cm} = C + \frac{Si}{30} + \frac{Mn+Cu}{20} + \frac{Cr+Mo+V}{10} + \frac{Ni}{40} + \frac{Nb}{50} + \frac{Ti}{30} + \frac{B}{1000}$$
  • 定性的解説:
  • 55#は炭素(およびやや高いMn)の影響で45#より炭素当量が高く、予熱や後熱処理なしでの溶接は困難です。
  • 重要な溶接構造物では低水素系溶接材の選定、予熱、層間温度管理、後熱処理(PWHT)を行い、熱影響部の割れを防ぎます。
  • 45#は溶接しやすく、多くの工場用途では適度な予熱と標準的な溶接材で接合可能です。

6. 耐食性および表面保護

  • 45#および55#は非ステンレス炭素鋼であり、固有の耐食性は低いです。
  • 代表的な保護手法:
  • 屋外・大気環境向けには溶融亜鉛めっきが一般的です。
  • 比較的穏やかな環境ではエポキシ、ポリウレタンなどの有機コーティングや塗装が用いられます。
  • 屋内で重要度が低い部品にはリン酸処理や油処理などの表面処理が行われます。
  • 摩擦や摺動する面には、耐摩耗性向上のため固着硬化や浸炭・窒化処理(仕上げ加工を伴う)などが適用可能です。浸炭処理は45#で使われることがありますが、55#では炭素が高いため一般的ではありません。
  • PREN(孔食抵抗当量値)はステンレス鋼にのみ適用されます: $$\text{PREN} = \text{Cr} + 3.3 \times \text{Mo} + 16 \times \text{N}$$
  • 45#・55#のような普通炭素鋼にはPRENは適用されません。

7. 加工性および成形性

  • 加工性:
  • 55#は炭素量が多いため工具摩耗が激しく、45#に比べて機械加工性は劣ります。加工速度や工具寿命を重視する場合、45#が有利です。
  • 熱処理後の硬さの増加も加工性を低下させるため、硬化状態の加工には切削の中断や適切な工具選定が必要です。
  • 成形性および冷間加工:
  • 45#は硬化能が低く延性が高いため、冷間成形、曲げ加工、引抜加工に適しています。
  • 55#は成形中に割れが発生しやすいため、成形ひずみを低く抑えるか、加熱成形などの方法を使用する必要があります。
  • 研削、穴あけ、仕上げ加工:
  • どちらも高精度の仕上げが可能ですが、最適な切削条件は最終硬さに依存します。表面仕上げのコストは硬さに比例して上昇します(55#の熱処理部品は仕上げコストが高くなります)。
  • 熱処理の制約:
  • 55#は鍛造品や大断面部品の変形や割れを避けるために、焼入れ冷却管理や焼戻し条件をより慎重に設定する必要があります。
  • 8. 代表的な用途

    45#(代表的な用途) 55#(代表的な用途)
    シャフト、軸(中程度の荷重)、クランクシャフト(鍛造・焼戻し品)、カップリング、良好な切削性と適度な強度を必要とする一般機械部品 より耐荷重性の高いシャフト、ピン、特定の歯車胴体、摩耗部品、高い貫通硬化性または使用中の硬さが求められる部品
    焼ならしまたは焼入れ・焼戻し(Q&T)により、中程度の強度と良好な靭性を持つ鍛造及び機械加工部品 焼入れ・焼戻し後により高硬度が求められる部品、農業・建設機械の一部部品を含む
    延性や曲げ加工が要求される冷間成形部品 接触応力が高い部品、または静的強度や耐摩耗性を優先する部品

    選択のポイント: - 製造のしやすさ、溶接性、靭性を重視し断面が中程度の場合は45#を選択してください。 - 高い強度や深い硬化が必要で、熱処理・溶接・加工の厳しい管理が可能な場合は55#を選択してください。

    9. コストと入手性

    • コスト:
    • どちらも汎用の普通炭素鋼ですが、45#は一般的な用途が多く炭素含有量がやや低いため(加工性が良い)、通常は若干安価です。
    • 55#は炭素含有量が高く、熱処理用途での品質管理が厳しいため、やや高価になる場合があります。
    • 入手性:
    • 45#は丸棒、鋼板、鍛造用材として極めて一般的です。55#も広く流通していますが、一部の市場や製品形状では45#ほど普及していません。
    • 熱処理済み、表面処理済み、大断面の55#部品は、熱処理工程(予熱スケジュール、焼戻し、冷却制御)に注意が必要なため、納期が長くなることがあります。

    10. まとめと推奨

    評価項目 45# 55#
    溶接性 良好(低CE値) 劣る(高CE値;予熱・PWHTが必要)
    強度と靭性のバランス 適度な強度で良好な靭性 高い強度が得られるが、適切に焼戻さないと延性が低下
    コスト やや安価で入手性良好 やや高価で厳格な熱処理管理が必要な場合あり

    45#を選ぶ場合: - 設計で延性、衝撃靭性、切削性、頻繁な溶接を重視する場合。 - 部品が中断面で経済的な生産や広い流通性を求める場合。 - 熱処理管理の余裕があり、現場での取扱いが容易な場合。

    55#を選ぶ場合: - 納入状態で高い硬さ、引張強さ・降伏強さの向上、厚断面の強化貫通硬化が必要な場合。 - 生産工程で焼入れ・焼戻しの制御や表面硬化を含む計画があり、基準炭素量の利点が活かせる場合。 - 追加の溶接・加工上の注意事項や、材料・加工コストが若干高くなることを許容できる場合。

    結論:仕様選定時は形状、予定熱処理、必要な表面仕上げ、溶接条件、使用荷重を十分考慮してください。迷った場合は、試験用の熱処理済み試験片を依頼するか、代表部位で硬さ・靭性試験を実施してから本格生産に進むことを推奨します。

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